キャンパス?ハラスメントコラム 2022年度
■「社会が変わってしまう」…!?(ニュース専修2023年3月号掲載)
2月1日の衆議院予算委員会で同性婚について問われた岸田首相は「制度を改正するとなると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」と答え、波紋を呼んだ。続く3日夜には首相秘書官の荒井勝喜氏が記者団とのやり取りの中で「僕だって(同性婚の人を)見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を導入したら国を捨てる人もいると思う」などと発言し、解任される事態となった。
岸田首相は自身の発言の真意について「決してネガティヴなことを言っていない」と反論した。ネガティヴではないかもしれないが、ポジティヴでないことは明らかである。なぜなら、現政権は今に至るまで性的マイノリティからの諸要求に対して消極的な姿勢しかみせていないからである。そこに加えて首相の側近中の側近である秘書官による差別発言のオンパレードとなれば、期待感はすぼむばかりである。荒井氏は「個人の意見であっても言うべきではなかった」と弁解したが、露骨な差別思想を持つ人を秘書官に任命した見識は問われてしかるべきだろう。
現在アメリカ合衆国バイデン政権の大統領報道官を務めているのは、初の黒人であり、LGBTQであることを公言するカリーヌ?ジャンピエール氏である。これまでも差別発言を繰り返す人物を政務官に起用して問題になるなどしてきた現政権が、多様性を尊重する社会を目指すというのであれば、それは言葉でなく具体的に見える形で示すべきであろう。
(キャンパス?ハラスメント対策室員 南 修平
)
■個々を尊重するために包括的に性を理解する (ニュース専修2023年1月号掲載)
話題の映画「あのこと」は、中絶が違法だった1960年代のフランスで、望まぬ妊娠をした大学生が、自分の身体なのに「選択肢」もなく、相手の男性もその女性の心身の健康に無関心という中、孤独と闘いながら解決策を模索するという実話に基づいている。現在の日本にも通じる様々な論点があるが、ここでは性に関する科学的で包括的な知識を身につけることの重要性について触れておきたい。
皆さんは、小中高でどんな性教育を受けてきただろうか?私が公立の小中高で学んだ性教育のうち覚えているのは、小学校高学年の女子だけが集められて、月経(生理)に関する映画を見たことぐらいである。同じ時間に体育をしていた男子たちは、女子限定の授業に興味津々で、その後も生理などを揶揄していた。他方、私の娘が通う小学校では、「包括的性教育」を視野に入れ、1年生から各学年、男女一緒に性教育を受けている。なお、包括的性教育の目的は「自らの健康?幸福?尊厳への気づき、尊厳の上に成り立つ社会的?性的関係の構築、個人個人の選択が自己や他者に与える影響への気づき、生涯を通して自らの権利を守ることへの理解を具体化できるための知識や態度等を身につけさせること」とされている。
大学生活に目を転じると、異性の問題をタブー視してはいないだろうか?自分自身の心と身体を大切にして、互いを尊重するためにも、性に関しての理解を深めることは重要だろう。私も小4の娘が性教育で得ている知識にキャッチアップすべく、学び続けたいと思う。
(キャンパス?ハラスメント対策室員 杉橋 やよい
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■ハラスメントは「人権」の問題 (ニュース専修2022年11月号掲載)
ハラスメントについて、日本の法律は、「ハラスメント罪」を制定して加害者を処罰するよりも、労働問題として事業主にその予防や対応を義務づける方向ですすんできました。
はじめてこうした規定ができたのは男女雇用機会均等法の1997年改正で、「セクシュアル?ハラスメント」につき、「職場において行われる性的な言動」により「就業環境が害されることのないよう」「適切に対応するため」の「必要な措置を講じなければならない」(11条)と定められました。また2010年代になると、「働き方改革」の名のもとにさまざまな法整備が行われ、「マタニティ?ハラスメント」(2016年)、「パワー?ハラスメント」(2019年)について同様の規定が設けられています。
これに対して、「キャンパス?ハラスメント」にはまだ法的な定めがありませんが、専修大学ではこれを、「人格の尊厳を傷つけるような言動」の問題であるとともに、差別的?不利益な取扱いによって「人権を侵害」することだと宣言しています。ハラスメントがより広い「人権」の問題として捉えられているのは大変誇らしいことです。
ただ、「人権」の問題なのだとすれば、誰しもこれを他人任せにはできません。ハラスメントを起こさないことはもちろん、見て見ぬふりをしたり、放置したりして、「適切に対応する」ための措置を怠るようなことはあってはならない、自戒の念を込めてあらためてそう思います。
140年の歴史と伝統をもつわれらが専修大学を、みんなでよりよい場にしていきたいですね。
(キャンパス?ハラスメント対策室員 河崎 祐子 )
■「シナモンいじめ」から、ハラスメントを考える(ニュース専修2022年9月号掲載)
シナモロール(シナモン)は、「サンリオキャラクター大賞」で2020年から22年にかけて連続で1位になるほどの人気キャラクターです。そんなシナモンですが、15年には、SNSのツイッター上で「いじめ被害」にあっていることがニュースとなりました 1)。シナモンのツイッターの公式アカウントに対して、匿名での誹謗中傷や暴言など、嫌がらせ投稿が相次いだのです。
こうした、いじめや嫌がらせにあたる行為は、「ハラスメント」と捉えられるかもしれません。
ハラスメントに対しては、近年、世界的に問題意識が高まり、日本社会でも、学校、職場、スポーツ界、芸術界などで生じるハラスメントが報道される機会が増えています。また、ハラスメントの要因となる行為の類型によって分けた用語、例えば、セクシュアル?ハラスメント、パワー?ハラスメント、モラル?ハラスメントなど(また、略称に変換した「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」など)は、一般的な言葉として普及もしてきました。なお、大学での授業や課外活動、研究活動などに関連したハラスメントは、「キャンパス?ハラスメント」と総称されています。
ただ、言葉の広がりの陰で、見落としてはならないことがあります。それは、「ハラスメント」という言葉を(従来のいじめ、嫌がらせ、ではなく)あえて用いるのには、理由があることです。その1つは、当事者間のトラブルやコミュニケーション不足といった個人的な問題ではなく、社会や組織の構造的な問題として捉えるためです 2)。
したがって、冒頭のシナモンへの「ハラスメント」についても、「シナモンかわいそう」や「キャラクターをいじめるのはダメ」と言って片付ける話題ではなく、なぜ、どのような状況で生じてしまうのか、日本社会に存在する構造的な問題として考えてみる必要もあるでしょう。
(キャンパス?ハラスメント対策室員 後藤 吉彦
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1) J-CAST、2015「人気キャラ『シナモン』をネット急襲 『ゴミ』『死ね』...もはや『いじめ』だ」(2022年8月8日取得、https://www.j-cast.com/2015/05/14235209.html)
2) 大和田敢太、2018『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか』中央公論新社
■「権力関係を意識することがハラスメント防止の第一歩に」(ニュース専修2022年7月号掲載)
近年、ハラスメントをめぐるトラブルが組織の中で大きな問題になっています。ハラスメントは、不平等な権力関係から起こりやすく、例えば、上司と部下、教員と学生といった上下関係から生まれます。社会的に弱い立場の部下や学生が、組織の中で大きな権限を有し社会的地位の高い上司や教員からハラスメントを受ける場合が多いのです。
私たちの社会には政府、企業、大学、非営利団体などさまざまな組織が存在しますが、そのいずれも権力構造を軸に運営されています。ウェーバーやフーコー等、著名な社会学者が分析したように、組織の運営においては、リーダー的な立ち位置の上層部が権力を握り、その権力を正当化しつつ組織で働く人々を管理する必要があります。権力とは諸刃の剣であり、組織で働く人々を効率的に管理し、組織を発展させるためには有効です。しかし、その一方で、権力の肥大化が進み、上層部の暴走や、効率や業績を重要視するあまり、部下を厳しく叱責し、パワハラに発展する危険性もあります。
大学組織においても、教員と学生との間のトラブルが頻繁に報道されています。教員は研究、教育活動において業績の達成に努力しています。しかし、業績重視のあまり学生への要求が過度に厳しくなると、学生の心身に深刻なダメージを与えてしまいます。教員と学生という上下関係の中で、学生は教員に強く意見を言えず、無理な要求ものんでしまいがちです。
人間関係の中で常に権力関係について考え、無意識のうちに相手にプレッシャーを与えていないか自問自答し、相手の心に寄り添う必要があるのではないでしょうか。
(
キャンパス?ハラスメント対策室員 田畠 真弓)
■勇気をもって「ノー」と言おう!(ニュース専修2022年5月号掲載)
キャンパス?ハラスメントは、教員や上司など、職務上の権限で優位にある者が、学生や部下などに、暴言や差別的言動、あるいは嫌がらせなどにより、学修や働く意欲を失わせる行為です。
こうしたハラスメント行為は、人格や尊厳を大きく傷つける人権侵害行為であり、良好な勉学?教育?労働環境を損なう許されない行為です。
皆さんが、このような言動により「イヤだな、おかしいな」と思ったら、「ノー」とはっきり言葉と態度で相手に伝える必要があります。
しかし、教員や上司などとの上下関係の中で、毅然として抗議することは、なかなか容易なことではありません。また、抗議したとしても、個人間で解決が図られないこともしばしばです。
その場合には、自分を責めたり、ひとりで悩んだりせず、ぜひとも「キャンパス?ハラスメント対策室」にご相談ください。対策室では、相談員が親身になって話を聞き、一緒に問題の解決方法を探ります。
また、対策室は、独立?公正な機関として、ハラスメント被害者に寄り添って問題を取り扱いますし、教職員から構成される対策室員には厳しい守秘義務が課されており、個人情報は厳重に保護されますので、安心して相談することができます。
学生と教職員には、ハラスメントにより良好な勉学?研究?教育?労働環境が不当に損なわれた場合、その悔しさ?悲しみ?不安を訴え、被害回復を求める権利があることを忘れないでください。
(
キャンパス?ハラスメント対策室長 内藤 光博)