専修大学文学部日本語学科

備前徹ゼミナール

ゼミナールについて

—まず、備前先生のゼミではどんなことを勉強するのか教えてください。
私のゼミでは、「外国人留学生が日本の大学で学ぶためにはどのような日本語力が必要か」を考えることから始めています。この「外国人留学生が日本の大学で学ぶために必要な日本語力」を「アカデミック?ジャパニーズ」と呼んでいます。2年生の前半でアカデミック?ジャパニーズを理解することからスタートします。
—「アカデミック?ジャパニーズ」って、初めて耳にすることばですが…。
留学生が日本の大学に入学するときには、多くの場合「日本留学試験 」という試験を受験する必要があるのですが、アカデミック?ジャパニーズはこの「日本留学試験」が始まった頃から使われるようになったことばです。まだ比較的新しい概念ですね。
—日本語の文法とか単語をいくつくらい知っていれば「日本留学試験」に合格できるか、その基準を考えるということですか?
それももちろん重要ですが、それだけではないんです。
例えば、大きな教室で講義形式の授業を受ける場合、まず先生の話の内容を自分の頭でまとめることが必要ですし、それをノートに取ることも必要です。
—高校までの授業では、重要なことは先生が板書してくれたんですが…。
もちろん、大学の授業でもポイントとなる事柄を板書したり、プリントを配付してくれたりすることはありますが、そうでない講義も結構あるんですよ。授業の中で重要なことは何かを自分で考えて、その都度ノートに書きとめることがとても大切になってきます。
また、ゼミナールのような少人数の授業では、自分の意見を積極的に発言することが大切ですね。話の流れの中で、自分がどう考えているかをまとめ、先生や他の学生にその内容がきちんと伝わるように話をする力が必要です。
こういったことの基礎になるのは、知っている単語の数とか文法のルールとかですが、それだけでは足りないんじゃないでしょうか。
ゼミナールの写真です。
—私は生まれも育ちも日本なので、日本語には特に不自由したことはありませんが、長い文章を要約したり、人前で話をしたりするのは苦手です。
そうですね、そういうことが得意だという人はあまりいないかもしれませんね。でも、今より少しでもそういうことができるようになるようにトレーニングを積んでいくことは大切だと思います。
講義形式の授業で、先生の1時間分の話の内容をまとめられるかどうか。また、ゼミの中で、仮に自分とは違う意見を持っている学生がいたときに、その意見に対してどのように反論し説得していくか。こういったことをやろうとしたら、「考える力」が必要になってくるだろうと思います。
具体的にどのような場面でどういう能力が必要になるかを考えていくと、外国人留学生だけでなく、私たち日本人にも共通する問題ではないかという気がしてくるんじゃないでしょうか。
—アカデミック?ジャパニーズっていうのは、留学生だけの問題じゃないんですね。
そういうことです。それをまず理解した上で、じゃあ、このアカデミック?ジャパニーズの能力を高めるために、今までどのような研究が行われてきたかを学んでいく、というのが私のゼミの内容です。
日本語教育は、応用言語学の一つです。言語研究は、大きく分けると「音声?語彙?文法?言語生活」の4つくらいになりますが、それらをベースとして、その上に日本語の教育が位置づけられますから、日本語教育のことをきちんと勉強しようと思ったら、これらの分野の基礎的な内容は知っておく必要があります。それで、2年生の後半以降のゼミでは、それぞれの分野の専門的な論文をテキストとして、知識を深めていきます。
日本地図です。
—私は日本語の方言や敬語などにも興味があるのですが、そういうのは日本語教育とは関係がないでしょうか?
日本語に限らず、言語は社会の中で使われているものですから、方言や敬語のような社会言語学の研究トピックは日本語教育とはとても深く関わっています。
例えば「わしゃぁ、まだまだ元気じゃ」ということばを聞けば、これはおじいさんのことばだとわかりますね。日本人なら特に意識しなくても感知できる能力は、外国人留学生にとってもやはり必要な能力なんです。
—ということは、先生のゼミでは社会言語学の内容もテーマになるということですね。
そうです。どういう人がどういう特徴の話し方をするか、また、どういう相手に対しどのような敬語で応じるか、その使い分けのメカニズムはどうなっているか、など、社会との関わりの中で日本人がどのようなことばの使い分け能力を持っているかを把握することがまず大切ですし、それをどのように教育に反映させていくかも日本語教育にとってとても重要です。
また、日本語学習者が母国でどのような言語環境で生活してきたかを知ることも、日本語教育を考えていく上ではポイントになります。
まず、学習者の母語がどの言語であるか、また、学習者が育った環境はどのような状況か、生活習慣や文化的背景はどのようであったか、日本社会とはどのように異なるのか、などですが、こういったことも日本語教育を考える上でのベースになるものだと思います。

授業について

—ゼミナール以外の授業はどんな感じですか?
講義科目として「現代日本語の研究」を、実習科目として「日本語教育実習B」などを担当しています。
「現代日本語の研究」は、音声、語彙?意味、文法、方言、敬語、ことばの獲得など、現代日本語の分野全般について、過去にどのようなことが研究されてきたかを、資料をもとに解説していきます。
いろいろな論文に載っているグラフや表などを見ながら、何が明らかになったのか、どういうことが研究のテーマになっているかを理解してもらうことを目的にしています。卒業論文のテーマを考えるときなどにも手助けになるのではないかと思います。
本棚の写真です。
「日本語教育実習B」では、夏休み中に韓国の大学に教育実習に行きます。4月から準備を始め、夏休み中に現地で教育実習を行い、夏休みのあとは実習中に撮影した授業の様子を見ながら、授業内容について履修者どうしで検討しています。
—教育実習の期間はどのくらいでしょうか?
出発から帰国までだいたい2週間です。ただ、実習の授業はその2週間だけで終わってしまうのではありません。今話したように、夏休み前の準備期間と、夏休み明けの事後期間がとても大切です。
—具体的にはどんな準備をしていくんですか?
実習先で使っている教科書がどんな内容になっているかを知ることが必要ですし、実際に実習で担当することになる内容をどういうふうに教えるかも考えておく必要があります。実習授業の準備には相当時間がかかるんですよ。
海外教育実習の写真です。
また、実習を終えて帰国してからは、撮影したビデオを見ながら、よかった点や足りなかった部分などを履修者どうしで検討していきます。これもまた、今後に生かすためにとても大切なプロセスだと思います。
—韓国に実習に行くなら、韓国語を勉強しておくほうがいいですか。
韓国語ができれば、実習期間中の生活面では役に立つと思います。それに、韓国人の日本語学習者にとって日本語のどのようなところが難しいかがわかる、ということもありますね。ただ、韓国語ができなくても、実習そのものにはあまり影響はないので、その点は心配する必要はありません。

研究について

—備前先生の研究について教えてください。
学部の卒業論文では日本語の方言をテーマにしました。もう何十年も前の話ですけれどね。そしてそのあと、大学院の修士論文では日本語の文法をテーマにしました。さらにそのあとは、また、日本語教育の中で日本語の方言をどのように扱っていったらいいか、つまり社会言語学について考えたりしてきました。
研究者は1つのテーマについて深く掘り下げていくのが普通だし、それが望ましいとも思うのですが、私の場合、どうも一貫性がないといった感じです。よく言えば、いろいろな分野に興味があるということかもしれませんが、私自身はどうも「これが自分の専門だ」という意識が持てないでいます。
ただ、日本語教育と国語教育との関係、日本語教育と社会言語学との関係が、昔に比べると密接になってきました。以前は、日本語教育と国語教育は全く別のものである、日本語教育と社会言語学はほぼ無関係、というとらえ方が一般的でしたが、今はそうではありません。その点からすると、社会言語学の勉強をしてきたことは、今の仕事に役立っていると言えるかもしれません。
専大キャンパスの写真です。
—そうすると、また授業の話に戻りますが、先生のゼミで卒業論文を書く場合、テーマ選びはどういうふうになるでしょうか。
基本的には、日本語学に関するものであればどのようなテーマでもいい、ということにしています。ただ、漠然と「何でもいい」と言っても手がかりがなくて困るでしょうから、ゼミで読む論文や「現代日本語の研究」の講義の話を発想の起点にしてもらえたらと思っています。

メッセージ

—何か学生へのメッセージはありますか。
私はゼミナールを「トレーニングの場」ととらえています。それは、受講者だけでなく、私自身にとってもという意味ですけれども。
例えば何か外国語を学ぶにしても、スポーツをやるにしても、力を高めようと思ったらトレーニングが必要ですよね。
同じように、日本人であっても、日本語の運用力を高めるためにはトレーニングが必要だと思います。
私自身、人前で話をするのは今でも苦手ですし、うまく話ができるとは思っていませんが、ゼミで配付した論文の内容を、自分だったらどのように受講者に向けて話すだろうかということを考えながら授業の準備をしています。
受講者にとっても、最初はゼミの準備にかなり時間がかかるのではないかと思いますが、トレーニングを繰り返すことで、「話すべき内容を要領よくまとめて、聞き手に伝わるように話すこと」が少しずつでもできるようになるのではないかと考えています。
—それがアカデミック?ジャパニーズの能力向上につながるということでしょうか。
そうだと思います。根気のいることかもしれませんけれども、トレーニングを積み重ねていきたいと思っています。
—ありがとうございました。
備前徹

備前びぜん とおる(教授)

1982年、東京外国語大学大学院外国語学研究科日本語学専攻修了。ウィーン大学、東海大学、滋賀大学を経て、1998年から専修大学。

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